

七十四歳の元自動車開発エンジニアが、温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル(CN)」の実現に貢献しようと起業した。
愛知県が、新市場を開拓する企業「スタートアップ」を支援するために設けた施設を四月から利用。資金や人材確保などの支援を受けながら、事業化にこぎ着けようと意気込む。 (戸川祐馬、写真も)
男性は、大阪府池田市の森下勝之さん。
一九七〇年にダイハツ工業に入社し、九六年発売の小型ワゴン車「パイザー」の開発をチーフエンジニアとして担当。二〇〇二年に取締役に就いた。
転機は、初孫が生まれた〇五年。
高度経済成長の一翼を担った森下さんは還暦を前に会社人生を振り返り「本当にこれで良かったのか」と思い巡らせた。
ちょうどその年、地球温暖化防止の取り組みを定めた「京都議定書」が発効した。
三〇年に予想される地球の状況に
「えらいことになる。孫のためにも何かしないといけない」
との考えに至った。
ダイハツ子会社の社長を退任した六十四歳から、起業に向けて動き始めた。太陽光や水力、風力といった再生可能エネルギーの中から、七割が廃棄され、回収過程でも多くの二酸化炭素(CO2)を排出する廃食油に着目した。
食品製造工場や給食施設などに小型のプラントを設置し揚げ物に使った廃食油からその場で不純物を取り除いて精製。燃料として販売したり、その油を燃料にしてボイラーで発電したりする事業モデルを考案した。
全国を飛び回る中で、廃食油の九割を使えるようにする技術を見つけ、モデルの実現にめどが立った。
企業に身を置いたときは一緒に取り組む仲間や資金に恵まれ、大学や他企業との連携も容易だった。
だが、起業ではすべてが自力。
愛知県が二四年にスタートアップの支援拠点「ステーションAi(エーアイ)」を開設することを知り、「日本で一番、スタートアップを応援してくれる土壌がある」と感じた。
県が同年までのつなぎ拠点として名古屋市中村区に設けた「プレステーションAi」のメンバーに応募し選ばれた。
二〇年度の日本のCO2排出量は約十一億トン。
その0・1%に当たる百万トンを一年で削減しようとの思いで、会社名は「マイナスミリオンプラント」の頭文字をとって「MMP」とした。
森下さんは「私たちの取り組みを見て削減に向けて動きだす人が増えれば、CNは決して無理な話ではない。大企業ではなくてもできることがある」と意気込んでいる。
ステーションAi 愛知県が2024年10月の開業を目指し、名古屋市昭和区鶴舞に整備している日本最大のスタートアップ支援拠点。ソフトバンク(東京)が設立した会社が運営を担い、5年以内に国内外の1000社の集積を見込む。オフィスや研究の場に加え、県が海外の支援機関や大学のプログラムを提供し、事業や技術の創出を後押しする。